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新スタジオができるまで「第六話 ある意味折り合った」

 庭師の友人の紹介で、例の元作業場を見に行くことになりました。今回はリフォーム屋の友人と電気屋さん、設備屋さんにも来てもらいました。

作業場が自宅の母屋と繋がっている為、電気水道メーターを別にして、トイレを造作する必要がある為です。大家さんには近所の洋菓子店で詰め合わせを買い、電気屋さんと設備屋さんにはビール6缶パックを買って向かいました。

物件は天井高もあり、何より自宅から歩いていける距離というのが最高でした。大家さんは少々人見知りのような感じでしたが、とても親切な良い方でした。賃料についてはタダというわけにはいきませんので、こちらから金額を提示して承諾していただきました。

だたし、お借りするにあたって大家さんの娘さんからお話があり、この物件は相続したのち手放す可能性があるとの事でした。大家さんは70代後半ですが、この先の事を考えたところでどうなるかわかりませんし、工事費用の方もURと同じくらいかかってしまいそうですが、自宅から歩いていける事もあり、URの方は申し訳ないですがこちらで進めることしました。

 

 お借りするにあたって契約書が必要になります。今回は個人間契約となるので仕事の合間にインターネットで賃貸借契約書について調べ用意をしていたのですが、どうもモヤモヤとすっきりしない気持ちがありました。

 

 第3条(契約期間)

1 本契約の期間は、令和5年○月○日より1年間とする。ただし、契約期間の3ヶ月前までに甲乙双方より特段の意思表示がないときは、自動的に1年間契約が更新されるものとする。

2 甲の相続により、本件建物を売却または建て壊しする場合、前項の定めにかかわらず、甲は3か月の予告期間をおいて、本契約を解約することができる

 

 と、記入する必要があった為です。

よくよく冷静に考えてみると、いつまで借りられるかも分からない、極端なことを言ってしまえば一年もしないうちに解約される可能性がある物件を高額な工事費をかけて借りる必要があるのだろうか。と思い始めた頃、狙い澄ましたかのように大家さんの娘さんから着信がありました。

賃料の事かなと思い電話にでると、

「あのー、非常に言いにくいのですが、お父さんが現状変更してまで貸すのはやっぱり嫌だと言い出してしまって・・・。」

聞けば、奥様をひと月前に亡くし、大家さんも軽度の認知症を患っているとの事。

こちらも契約する事を考え直していたタイミングでもあり、ある意味折り合ってこの話は白紙になったのでした。

大家さんの娘さんに、

「せっかく出来たご縁なので、私に手伝える事があればいつでも気軽に連絡ください」

と最後に伝え、また新たに物件探しが始まるのでした。

大家さん、いつまでもお元気でいて下さい。